きいろ月報

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月報(10月)

読書(山本文緒

10月、大学時代好きだった山本文緒作品を改めて集め始めた。再読本は、写真の7冊に加え、パイナップルの彼方、群青の夜の羽毛布、恋愛中毒、落花流水の計11冊。

紙婚式シュガーレス・ラブは11月に購入予定。

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10代から20代にかけて、誰かにわかりやすい形で愛されたくてたまらず、脳内恋愛自家中毒でくすぶり、周囲に自慢できそうな彼氏を作っては短期間で振り振られ、その裏で17歳から27歳まで関係の切れない縁も続き、うまく生きられないもどかしさを山本文緒作品の登場人物たちと共有した。

当時の私は「自分以外、みんな人生がうまくいっているように見える病」で、自分の中の小さな嘘、ズルさ、虚栄心、嫉妬、執着、欲求不満が自分の周囲の人たちの中にもあると思えないことが苦しかったのだが、山本文緒作品の中に文字として存在する生々しい感情描写に救われ、そして混沌とした負の感情を言葉でラベリングしてもらった。

 

かつて読んでいた作品を再度集め始めたきっかけは、「自転しながら公転する」の中央公論文芸賞受賞時の林真理子の講評文をネットで読んだこと。

https://www.chuko.co.jp/news/pdf/kouhyou_202110.pdf

久しぶりに読んだ山本文緒の長編「自転しながら公転する」は、40歳近くなってそれなりに周囲とうまく折り合いをつけながら生きてきた私に「自分がうまくいかないこと・自分の自信のなさを、他人に責任転嫁してないか」「大切な人にまっすぐ愛情を注げているか」という新たな課題を与え、その課題を授けたまま山本文緒先生は亡くなられてしまった。

東京から地方都市に出戻り、アパレル販売の契約社員として働く30代の主人公の女性が、体調を崩した親との同居生活の中で、結婚相手はこの人でよいのか、自分は将来どうなっていくのかと悩む日常を描いた同作。

主人公が後輩から「悩みの根本は自分が経済的に自立できていないこと」と指摘されるシーンは耳が痛い反面、経済的に自立していれば相手がどんな状況・どんな経歴であろうと人柄だけで相手を選ぶことができるという希望にもつながる。

主人公の交際相手が中卒元ヤン回転寿司勤務で、周囲から交際を反対されるシーンがある。

私の夫も似たような背景があり、高校は中退しているし、若気の至りで胸から肩腕にかけて巨大な龍が刻まれていて、なかったことにはできない過去になっている。

結婚を決めた当時私はシングルマザーで、細々とした生活の中で毎月の家賃生活費を支払い、娘を大学まで行かせられるだけの積立てをしていた。誰かに期待したり寄りかかって後で痛い目に遭うくらいならひとりで生きていこうと必死だった。そんな時期だったから、誰かのスペックや未来にもたれかかるつもりはなく、目の前の夫の心身の健康とストレートな愛情、言葉の裏を疑わずに一緒に居られる安心感、現実や行動だけで結婚を決めたように思う。

大学卒業以降、がむしゃらに働いたり出世をしたわけではなく、特別なスキルも身につけず、常に誰かに生活を守ってもらいながら事務職で働いてきた私は、主人公のようにある日この「悩みの根本は自分が経済的に自立できていないこと」という言葉を投げかけられたとして、果たして何ができたか、何を変えることができたかわからない。日常はそう簡単に変わらないし変えることは難しく、離婚により半ば強制的に経済的自立せざるを得なかった私にとって、主人公の周囲の声はかつての自分に向けられているようで、チクリとした針が胸の底に残った。

 

「自転しながら公転する」を読んだ後、山本文緒の最後の日記をまとめた「無人島のふたり」を購入した。普段は文庫本派だけど、この2冊はハードカバーで買った。

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亡くなる前の生活はご主人との愛にあふれていて、「落花流水」を読んだ後だから尚更ホッとするものではあったけれど、それでも大好きな作家の死はとても淋しい。

 

「自転しながら公転する」はおそらく私のバイブルであり、いつも戻ってくる原点、「無人島のふたり」は目指す未来になると思う。

色々な選択肢の中から選び取ってきた今の人生において、大切な人、自分が大切にできる範囲の人 娘と夫 を大切にしていくことが何より大切であることをこの2作品は思い出させてくれる。

時々自己顕示欲が顔を出し、見ず知らずの人からの賞賛やSNS上の評価や数字、手応え等がほしくなったり、誰かにアドバイスしている立場が羨ましく見えたり、仕事における業務の正確性だけでなく自分の価値を前に出したくなりそうになることがある。

そんな時は山本文緒の世界に戻って、届く範囲の人を大切にする心を思い出そうと思う。